トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

000-000_試作

000-000_試作

 われは足踏して心いらてり。其居たるあとを踏みにじりて、
「畜生、畜生。」
 と呟きざま、躍りかゝりてハタと打ちし、拳はいたづらに土によごれぬ。

泉鏡花 「龍潭譚」

※ ※ ※

晴れた日の、夕刻だった。
傾きかけた太陽がギラギラして、ひどくまぶしい。
無数の影が、あちこちで交錯している。

通りの向こう側を、飼い犬を連れた老人が、ゆっくりと歩いている。
きゅうに走りだした犬に引っぱられて、老人がつまづきそうになるのが、見えた。
やにわに怒りだした老人の声が、耳に届いてくる。

春風が、路面を吹きぬけた。
道ばたに植えられたツツジの花が、風に揺れる。
空気は、やたらと埃っぽい。

その場に立ち止まり、目をしばたたいた。
風ではなくツツジが、目に染みた。
その、鮮やかすぎる赤い色が。

角を曲がってきた車が、通りを走りすぎた。
エンジン音に遮られて、老人の罵声がかすかになる。
「先に行くなといっ・・・なん・・・犬・・・この!」

彼は、自分の左腕を、強くつかんでみた。
握りつぶすくらい、思いきり力を入れる。
痛みだけは、まったく感じない。

思わず口元に、笑みが浮かぶ。
彼は、歩きだした。
心の中に、恐ろしいほどの興奮が、湧きあがってきた。

これは、すごい。

恐ろしいほどに、「リアル」だ。
触覚や嗅覚まで、まさに現実そのもの。
・・・あの子の、言ったとおりだ。

※ ※ ※

行く手に、コンビニが見えてきた。
どこにでもありそうな、コンビニ。
ただし、見たこともない店名だった。

立ちよってみることにした。
入り口をくぐる。
軽やかなチャイムの音が、響きわたった。

人気はない。

若い男の店員が、こちらに背を向けていた。
弁当の棚を、いっしんに調べている。
こちらに気づいた様子はない。

彼はそのまま、店の奥に進んだ。
冷蔵スペースの扉を開ける。
ペットボトルを取りあげ、栓を開けた。

炭酸が噴きだす、プシュッという音がする。

ボトルに口をつけ、唾を吐きいれた。
元通りきっちりと栓をして、棚に戻す。
泡立つ紫色の液体の中で、彼の唾液が、ぬらぬらと踊っているのが見えた。

缶詰を、次から次へと開けていく。
売り物のボールペンを手に取り、インスタントラーメンの蓋に、ブチブチと穴をうがつ。
工場直送をうたう菓子パンを握りつぶし、食パンを踏みつぶす。

みょうに生々しい食べ物のにおいが、あたりにたちこめた。
とことん「リアル」だ。
なぜか股間が、やたらにうずく。

同時に、食欲も感じていた。
しかし、「何も口にするな」と、釘を刺されている。
「「エモノ」いがいは ぜったい 食べちゃ ダメだよ」

書棚に近づいて、雑誌を手に取る。
扇情的な情報誌だ。
よくある袋とじのページを開いて、乱暴にちぎり取った。

いきなり、店員が動きだした。
あわてて袋とじを、雑誌に押しこむ。
そのまま、押しこむようにして書棚に戻した。

店員は、レジに向かった。

やはり、気づいた様子はなかった。
店員はレジに立つと、キャッシャーを開いて、なにやら操作をしはじめる。
ひょっとして、すごくマヌケなのかもしれない。

※ ※ ※

黒い紙切れが、ひらひらと舞った。
雑誌の間から、飛びだしたのだろうか。
床に落ちたそれを、拾いあげる。

「もっともっと びっくり するかもね!」
紙切れには、いかにも子どもっぽい、へたくそな字が並んでいた。
「ふくろとじの なかみを みてみよう♪」

彼は、ふたたび雑誌を取りあげた。
袋とじの中を見る。
そして、愕然とした。

写っているのは、幼い女の子たちばかりだった。
無数の男たちに、むちゃくちゃに犯されている。
何枚も、何人も。

ありえない。

突き立った男たちのモノに支えられて、宙でブラブラと、揺れている子。
男の逞しい下半身の上に、ピンク色のベビーカーごと、抱えあげられている子。
両手両足を失ったつけ根に、4本の男のモノを、グイグイ突き立てられている子。

どの子も、歓喜の表情を浮かべている。
それどころか、よだれを垂らしながら、もっともっとと、おねだりしている。
強姦者の顔だけが、見えない。

「期間限定!!」

最後のページに、可愛らしい書体の文字が躍っていた。
「インファンタジア vol.23 写真集&ビデオ 絶賛発売中!!」
頭の中に灰色の靄のようなものが、広がった。

それは殺意に似ていた。

※ ※ ※

チャイムの音が、聞こえてくる。

小さな女の子が、店内に入ってきた。
スキップするような、足取り。
そのままレジの前を、通りすぎていく。

髪を、両側でお下げにしている。
どこにでもいそうな、ふつうに可愛らしい女の子。
7歳くらいだろうか。

灰色の靄が、頭の中を覆っている。
興奮しすぎたせいか、彼は、気分が悪かった。
雑誌を書棚に戻す。

また、チャイムの音がした。
女の子の母親と思われる女が、店内に入ってきた。
そちらに向かう。

「おい!」
声をかける。
女が、ふり返った。

思いきり、頭を殴りつける。

女のこめかみが、深々と陥没していく。
反対側のこめかみが、一瞬、大きくふくれあがる。
目玉と舌が、同時に飛びだし、たちまち引っこんだ。

ふしぎなスローモーションだった。

女の体は、派手な音を立てて、その場に倒れこんだ。
倒れると同時に、ドバッと、小便をもらす。
それから、激しく痙攣しはじめた。

なかなかの美人だった。
髪はワンレン、びったりしたワンピースの上に、艶やかな革ジャンをはおっている。
子どものすぐあとに入ってこなければ、ママだと分からなかっただろう。

床に流れだした「ママ」の小便が、店内を照らす蛍光灯の光に、キラキラと輝いている。

レジの前だった。
吐息のようなもの以外、ママは、いっさい声を出さなかった。
悲鳴を上げたのは、マヌケな店員だ。

丸く開いた口から、叫び声がたえまなく飛びだしてくる。
つくづく、マヌケなヤツだと思った。
どうせこんなヤツは、小さい頃、さぞかし苛められたのだろう。

彼は、ボールペンをまだ持っていた。
インスタントラーメンの蓋に、穴を開けたヤツだ。
この店員にも、無数の穴を開けることにした。

※ ※ ※

レジの前に倒れた店員に、夢中で、穴を開けつづける。
すぐ横で、チャイムの音がした。
閉まりかけたガラス戸の向こうに、女の子の後ろ姿が見える。

夕日に輝く道を、必死で走り去っていく。
華奢な脚が、せわしなく前後している。
ときおり、つんのめりそうになる。

彼は、立ちあがった。
そのまま、駆けだす。
背後で、チャイムの音がした。

※ ※ ※

鬼ごっこは、すぐに終わった。

女の子は、どうしようもなく、泣きじゃくっていた。
何とか体を引きおこし、塀を乗りこえて、民家と民家の隙間に逃げこもうとする。
慌てたせいか、塀の手前で、転んでしまった。

これが、「夢」であるはずがない。
彼は、痛いほど、勃起していた。
こんなに「リアル」な夢が、あるはずがない。

それに、そんなことは、どうでもよかった。

彼は、倒れた女の子を抱えあげた。
女の子は、失神していた。
ぐったりした小さな体は、とても柔らかくて、温かい。

とても、熱っぽい。
「つかまえた・・・」
彼は、気を失った女の子の耳元に、そっと囁いた。

「インファンタジア、するよ」

(続く)